ベンヤミンの本を読んでみたいけれど、原典と解説書のどちらから選べばよいか、迷っていませんか。
「アウラ」や『パサージュ論』は知っていても、書店には似た論文を収めた選集がいくつも並びます。気になった本を買ったら難しすぎたり、同じ文章が重なったりするのは避けたいところです。
初めてなら柿木伸之の『ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評』、本人の文章を読みたいなら『ベンヤミン・アンソロジー』が入口になります。
この記事では、入門書・解説書2冊、本人の著作6作品、芸術論の番外編1冊の計9作品を紹介します。写真、歴史、都市、文学批評のどこに関心があるかで比べながら、最初の1冊とその次を選んでみてください。
ベンヤミンを知る入門書・解説書おすすめ2冊
人物の生涯から全体を知るか、原典の読み方を知るかで、選ぶ本が変わります。最初の2冊は、何を助けてくれる本なのかを比べてみてください。
1位:『ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評』(柿木伸之)
ベンヤミンがどんな人で、何を考えたのかを知るなら、まず柿木伸之の『闇を歩く批評』を手に取ってみてください。作品名や用語を先に覚えるより、仕事の全体を見渡したい人に向いています。
なぜなら、生涯と批評のつながりを追えるからです。写真や文学、歴史へと関心が広がる理由を、彼が生きた時代と重ねて考えられます。
たとえば、芸術を論じる人が、どうして歴史や政治にもこだわるのか。そのつながりを意識すると、別々に見えていた著作を同じ人の仕事として読み進められます。
新書なので持ち運びやすい一方、概念まで平易になるわけではありません。わからない言葉をすべて調べ切ろうとせず、気になった主題に印をつけながら読むと、次に開く原典を選びやすくなります。
2位:『ヴァルター・ベンヤミン 「危機」の時代の思想家を読む』(仲正昌樹)
原典を読み始めて、短い一文の意味がつかめなくなったら、仲正昌樹の講義形式の解説が候補になります。人物の紹介より、文章をどう読めばよいか知りたいときの1冊です。
なぜなら、主要な論考を取り上げ、議論の進み方をたどっているからです。用語の説明だけを読むより、原典と行き来するために使うと本書の役割がはっきりします。
たとえば、「翻訳者の課題」「暴力批判論」「歴史の概念について」、複製技術をめぐる芸術論を扱います。言語・法・歴史・メディアのうち、自分が読みたい論考に対応するところから入れます。
最初からすらすら通読できる概説を期待するより、アンソロジーの横に置く読み方がおすすめです。全体像を先に知りたい場合は柿木の新書、原典の読み方を考えたい場合は本書、と選んでみてください。
ベンヤミン本人の著作・代表作おすすめ6作品
ここからはベンヤミン自身の文章です。原典の入口になる選集から、関心を深める主著へ進む順に並べました。選集に入っている論文を別々の作品として数えることはせず、上下巻や全5巻の著作も1作品として紹介します。
1位:『ベンヤミン・アンソロジー』
ベンヤミン本人の文章を1冊だけ選ぶなら、山口裕之編訳の『ベンヤミン・アンソロジー』がおすすめです。いくつもの単独論文を買いそろえる前に、関心のある主題を探せます。
なぜなら、言語・暴力・芸術・歴史をめぐる重要な10篇を1冊で読めるからです。ただし入門用の解説文ではなく原典の選集なので、短い論文でも立ち止まるところはあります。
たとえば、「技術的複製可能性の時代の芸術作品」の第三稿と「歴史の概念について」が収録されています。写真や映画が気になるなら前者、歴史や進歩への疑問があるなら後者、と入口を選べます。
「翻訳者の課題」や「暴力の批判的検討」も本書の中で読めます。別の文庫を追加するときは、同じ論考が重なっていないかを見てください。まずは気になる1篇を読み、解説書と往復する使い方で十分です。
2位:『図説 写真小史』
写真が好きで、撮り方から少し離れて考えてみたくなった人には、『図説 写真小史』が合います。抽象的な概念だけで読み進めることに不安がある場合も、写真そのものを入口にできます。
なぜなら、論考が触れる写真を見ながら、どんな写り方や見られ方を問題にしているか確かめられるからです。久保哲司の編訳による本で、ベンヤミンの本文に加え、関係する文章や資料も収められています。
たとえば、アジェやザンダーらの写真を手がかりに、人物や街が写真の中でどう現れるかを考えられます。作品名を文字で追うだけでなく、画像と文章の間に戻れるのがこの版を選ぶ理由です。
カメラの設定や構図を教える技法書ではありません。写真史や写真を見る経験へ関心が広がってきたときに読んでみてください。撮影の入門書も探したい方は、写真を学ぶおすすめ本も参考になります。
3位:『ベンヤミン・コレクション3 記憶への旅』
都市の風景や子どもの頃の記憶に引かれるなら、『ベンヤミン・コレクション3 記憶への旅』を選んでみてください。思想の要点をまとめた本より、文章の中で考えが動く様子に触れたい人の候補です。
なぜなら、街の経験と個人の記憶をめぐる文章を、まとまって読めるからです。浅井健二郎編訳・久保哲司訳のテーマ別選集で、第3冊にあたります。
たとえば、『一方通行路』『ドイツの人びと』『ベルリンの幼年時代』が収められています。短い文章を集めた都市へのまなざし、書簡の選集、幼年期の記憶という、書き方の違いにも目を向けられます。
「3」とありますが、1・2を読了していないと話が続かない本ではありません。記憶という主題でこの1冊を選べます。厚みがあるので、最初からすべて読み切るより、気になる文章から試すのもよいと思います。
4位:『パサージュ論』
街を歩くことや、店に並ぶ商品と人の暮らしの関係を考えたいなら、『パサージュ論』へ進んでみてください。ここでは2020〜2021年刊行の岩波文庫版、全5巻を紹介します。
なぜなら、19世紀パリの商業空間や流行を手がかりに、近代の都市と商品社会を考え続けた資料を読めるからです。まとまった結論を順に説明する本とは、読み心地が大きく違います。
たとえば、屋根付きの商店街であるパサージュ、流行、都市を歩く遊歩者などが主題になります。引用と覚書を行き来しながら、ひとつの街の中にどんな欲望や歴史が集まるのかを考えられます。
本書は未完の遺稿を死後に編集したものです。最初の1冊にするより、入門書や短い論考を読んでから、関心のある主題を追う読み方に向いています。旧版と巻構成が異なるため、買い足す場合は岩波文庫でそろえてください。
5位:『ドイツ悲劇の根源』
文学や美術に現れるアレゴリーを掘り下げたい人には、『ドイツ悲劇の根源』があります。浅井健二郎訳のちくま学芸文庫は上下巻で1作品なので、2冊を続けて載せています。
なぜなら、バロック悲劇の読み方を通して、表現と歴史の関係を考えるからです。悲しい結末の物語を集めた本でも、ドイツ文学のやさしい紹介でもありません。
たとえば、上巻には「認識批判的序章」やバロック悲劇とギリシア悲劇をめぐる議論があり、下巻ではアレゴリーとバロック悲劇を扱います。作品の内容だけでなく、作品をどう捉えるかという方法も問われます。
冒頭の序章から難しく感じても、不思議ではありません。一般的な入門を1冊読んでから、文学批評への関心が残ったときに選ぶとよいでしょう。アレゴリーだけを辞書的に知りたい段階なら、まず後の概念欄で入口を確かめてください。
6位:『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』
批評は作品の良し悪しを判定するだけなのか。そんな疑問がある人には、初期の研究『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』を挙げたいです。ベンヤミンの批評の出発点に関心が向いたときの本です。
なぜなら、シュレーゲルやノヴァーリスを読みながら、反省という働きと芸術批評の関係を考えるからです。写真や映画から入る本とは異なり、初期ロマン主義の芸術観が中心になります。
たとえば、本論では「反省」「芸術批評」を扱い、初期ロマン主義の芸術理論とゲーテに関わる論考や資料も収められています。批評と作品がどのような関係を持つのかを、言葉の使い方に注意して読めます。
ロマン派の背景を知らないと、読むための準備は多めです。一般的な芸術鑑賞の入門を求める人より、『ドイツ悲劇の根源』などから初期の批評へ戻りたくなった人におすすめします。
番外編:芸術論をじっくり読むための1冊
芸術論を読んでみて、もう少し助けがほしくなったときの解説です。生涯全体を紹介する入門書とは目的が違うので、順位を付けずに置いています。
『ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読』(多木浩二)
写真や映画とアウラの関係を、原典に沿って考えたいなら、多木浩二の『ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読』が役立ちます。総合的な入門書から分けて、芸術論のための1冊として紹介します。
なぜなら、原典の本文と、知覚や芸術をめぐる細かな読解を往復できるからです。本書には野村修訳の原典も併録されているため、解説だけを読んで終わりにせずに済みます。
たとえば、映画、アウラ、芸術と政治の関係が取り上げられます。「複製すると本物の価値が下がる」という一言で片づけず、受け取る人の経験や社会との関係まで考えたいときの足場になります。
アンソロジーの山口裕之訳とは翻訳が異なります。最初から両方を買う必要はなく、芸術論をさらに読みたくなったときに追加するので十分です。メディアへの関心が広がったら、メディア論のおすすめ本もたどってみてください。
ベンヤミンのキー概念はどの本で読める?
言葉の意味をすべて覚えてから読もうとしなくても大丈夫です。気になる問いが見つかったら、表のリンクから、その原典を収めた本へ戻れます。
| キー概念 | 主に読む原典 |
|---|---|
| アウラ・複製技術 | 「技術的複製可能性の時代の芸術作品」第三稿 |
| 法と暴力 | 「暴力の批判的検討」 |
| 歴史・進歩 | 「歴史の概念について」 |
| 都市・遊歩者 | 『パサージュ論』 |
| 記憶・想起 | 『ベルリンの幼年時代』ほか |
| アレゴリー | 『ドイツ悲劇の根源』下巻 |
| 反省・芸術批評 | 『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』 |
アウラ・複製技術は、写真や映画を見る経験から考える
アウラに関心があるなら、芸術を「どう見るか」という問いから入ってみてください。
なぜなら、複製技術の議論では、作品そのものに加えて人の受け取り方の変化が問題になるからです。
たとえば、写真や映画では、同じ画像が異なる場所で多くの人に見られます。複製を本物より劣ったものと決めつける前に、見る条件がどう変わるかを考えられます。
まずはアンソロジーの芸術論へ。言葉の意味をもう少し追いたくなったら、多木浩二の精読を組み合わせるとよいでしょう。
暴力と歴史は、法や進歩への問いから読む
政治や歴史の本として読むなら、法は何によって支えられるのか、進歩から何がこぼれるのかという問いを置いてみてください。
なぜなら、ベンヤミンは制度や歴史を当然のものとして受け入れず、その成り立ちや見落とされた経験へ問いを向けるからです。
たとえば、「暴力の批判的検討」では法を立てる暴力と維持する暴力、「歴史の概念について」では歴史を進歩として捉える見方が問題になります。両者を同じ結論にまとめず、問いの違いを確かめてください。
どちらもアンソロジーに入っています。難しい箇所は仲正の解説に戻り、1篇ずつ追う読み方ができます。
都市・記憶・アレゴリーは、具体的なものからたどる
抽象語に疲れたら、街や記憶、文学作品という具体的な対象へ戻ってみてください。
なぜなら、ベンヤミンの思考は、都市の事物や過去の断片を読む仕事にも広がっているからです。ただし、想起やアレゴリーを同じ意味の言葉として扱うわけではありません。
たとえば、幼年期の経験なら「ベルリンの幼年時代」、商品に満ちた都市なら『パサージュ論』、バロック悲劇のアレゴリーなら『ドイツ悲劇の根源』という入口があります。
短い文章から始めるなら『記憶への旅』が候補です。文学批評の方法まで関心が伸びたら、『ドイツ悲劇の根源』や初期ロマン主義の批評論へ進めます。
ベンヤミンの本はどれから読む?目的別の読む順番

全部を順番にそろえる必要はありません。いちばん気になるテーマをひとつ選び、次の本は読んでから決めるくらいでよいと思います。
全体像を知ってから原典へ進みたい
まずは柿木の新書→アンソロジーの順が選びやすいです。
なぜなら、生涯と主題を知ってから本人の言葉へ入れるからです。
たとえば、新書で芸術の問題が気になったら、アンソロジーの芸術論を選びます。
全篇を理解することを目標にせず、柿木の新書で気になった箇所を原典で確かめてみてください。
写真・映画やアウラに興味がある
写真からなら『図説 写真小史』→アンソロジーの芸術論へ進めます。
なぜなら、目で見られる対象から、知覚や複製の問いへ進めるからです。
たとえば、写真が写し取るものへの関心から、映画や複製された芸術の受け取り方へ問いを広げられます。
写真小史を入口にし、芸術論の読解を続けたくなったら多木の精読へ。初めから3冊すべてを買う必要はありません。
歴史や暴力の問題から読みたい
仲正の解説と、アンソロジーの該当論考を並べて読む方法があります。
なぜなら、解説で問いを確かめながら、原典の言葉へ戻れるからです。
たとえば、「歴史の概念について」を先に選び、次に「暴力の批判的検討」へと進めます。主題を絞ると読み比べる負担も減らせます。
法と歴史の概念欄で入口を確かめ、仲正の本を必要な部分から使ってみてください。
都市の風景や記憶の文章を読みたい
『記憶への旅』→『パサージュ論』という順なら、短い文章から長い仕事へ進めます。
なぜなら、都市へのまなざしに触れてから、引用と覚書の集積に向き合えるからです。
たとえば、「ベルリンの幼年時代」から始め、次にパリの商店街や遊歩者へ関心を伸ばせます。
選集3を読んで都市の主題が残ったら、『パサージュ論』へ。後者は物語のような通読を期待せず、気になる主題をたどる本として選んでください。
文学と芸術批評を深く読みたい
入門を読んだあと、『ドイツ悲劇の根源』や初期ロマン主義の批評論へ進む道があります。
なぜなら、作品をどう読むかという方法へ踏み込めるからです。
たとえば、アレゴリーなら前者、批評と反省の関係なら後者を選べます。どちらも文学史や哲学の背景が助けになります。
悲劇論を読んでから初期へ戻っても、ロマン主義の批評論から進んでも構いません。やさしい本から難しい本へ一本道で並ぶ関係ではないので、問いに合うほうを選びましょう。
ベンヤミンの本選びでよくある質問
最後に、最初の1冊を買う前に迷いやすい点を整理します。読むのに必要な準備や、選集の買い方が気になる方は確認してみてください。
哲学の予備知識がなくても読めますか?
知識がなくても読み始められますが、全体像を知る入門書から選ぶと取り組みやすいです。
なぜなら、短い原典にも哲学や文学の前提が重なっているからです。
たとえば、翻訳や歴史についての数ページでも、用語の意味をすぐにつかめないことがあります。
最初は柿木の新書で気になる主題を探し、わからない箇所があっても読書を終わりにしない選び方をしてみてください。
『パサージュ論』は最初に読んでもいい?
都市に強い関心があるなら選べますが、最初の1冊として広くすすめる本ではありません。
なぜなら、未完の引用・覚書群で、議論が順に説明される構成ではないからです。
たとえば、パリの主題が気になっても、巻頭から読むだけでは全体の狙いが見えにくい場合があります。
まず都市と記憶の選集や入門書を読み、それでも関心が続くなら全5巻の構成を確かめて進むのがおすすめです。
選集と単独の論文は両方買うべきですか?
最初から両方をそろえず、収録内容を見てから追加するので十分です。
なぜなら、同じ論文が別の題名や翻訳で収められていることがあるからです。
たとえば、芸術論や暴力論、歴史論はアンソロジーで読めます。多木の精読は原典併録ですが、買い足す理由は細かな解説を読みたいかどうかになります。
原典を読むために買うのか、翻訳を比べるのか、解説がほしいのかを先に決めると、重複を避けながら本を選べます。
まとめ:最初の1冊は、知りたいことから選ぶ
ベンヤミンの本は、生涯、写真、都市、歴史のどこから入るかで選び方が変わります。名前の知られた大著に、いきなり挑まなくても大丈夫です。
まだテーマが決まっていないなら柿木伸之の『闇を歩く批評』、本人の文章に触れたいなら『ベンヤミン・アンソロジー』を。写真が好きなら『図説 写真小史』、記憶や街の文章が気になるなら『記憶への旅』も選べます。
まず1冊を読み、そこで残った問いから次を探してみてください。同じ論文を何冊も買いそろえるより、その問いに戻れる本を選ぶほうが、読み続けやすくなるはずです。
