ボーヴォワールの本を読んでみたいけれど、どれから手に取ればよいのか迷っていませんか。
『第二の性』で知られるシモーヌ・ド・ボーヴォワールには、自由や老いについての論考、小説、自分の歩みをつづった回想もあります。思想を知りたいのか、物語から触れたいのかによって、最初に選ぶ本も変わります。
この記事では、入門書・解説書2選と本人の著作7選、計9作品を紹介します。全巻で一つになる本はまとめて取り上げ、版の選び方や関心別の読む順番も案内します。
初めての方も、主著に進みたい方も、いま考えたいことに近い一冊を探してみてください。
読みたい本に合わせて、気になるランキングからご覧ください。
全体像を知るなら入門書から。物語が好きな方は、本人の著作にある『離れがたき二人』から始めても大丈夫です。
ボーヴォワールのおすすめ入門書・解説書2選
生涯と思想をひととおり知る一冊と、『老い』という一つの主著から入る一冊を選びました。予備知識よりも、何を知りたいかで選んでみてください。
1位:人と思想74 ボーヴォワール 新装版(清水書院)
ボーヴォワールを初めて読むなら、生涯と思想のつながりがわかる村上益子の入門書が手に取りやすい一冊です。『第二の性』だけでなく、自由や他者、老いについて何を考えた人なのか、ひととおり見渡せます。
なぜなら、娘時代、教師時代、作家・思想家としての歩みをたどりながら、人生の転機と思想の問いを結びつけて読めるからです。有名な言葉だけを知るより、その問いがどんな人生のなかから生まれたかをつかみやすくなります。
たとえば、前半で人物の歩みを追い、後半で自由論や他人論、『第二の性』『老い』へ進む構成です。生涯のどこが気になるかを確かめながら読むと、次に手に取りたい本人の本も見えてきます。
哲学の専門用語に慣れていなくても、まず人物に関心を持てる人に向いています。本人が書いた本とは分けて読み、女性と社会の関係が気になったら『第二の性』、人間の自由が気になったら『人間について』へ進んでみてください。
2位:ボーヴォワール 老い【超高齢社会という「恵み」】(NHK出版)
年を重ねることや、高齢者が生きる社会について考えたい方には、上野千鶴子による『老い』の解説がおすすめです。ボーヴォワールの大著を、いま気になる問題から読み始める足場になります。
なぜなら、老い、性、社会のなかの役割を取り上げ、「役に立つ」ことだけで人の価値を測る見方を問い直していくからです。老いを遠い将来の話と感じる人にも、自分や家族の暮らしにつながる入口があります。
たとえば、本書には「老いと性」や、超高齢社会を「恵み」として考える章があります。2026年刊のNHK「100分de名著」ブックス版には、番組の月刊テキストをもとにした内容に加え、ブックス特別章も収められています。
原典をいきなり上下巻で読むのは大変そう、というときに選びたい本です。これは上野千鶴子の解説であり、ボーヴォワールの『老い』そのものではありません。問いをつかんだあとで本人の『老い』を開くと、長い議論にも入っていきやすくなります。
ボーヴォワール本人のおすすめ著作7選
ここからは本人の文章です。代表性と扱う問いをもとに順位をつけていますが、1位から順番に読む必要はありません。哲学の論考、小説、回想のなかから、読みたいものを選べます。
1位:決定版 第二の性(全3冊)
女性が社会のなかでどのように位置づけられてきたのか、原典から考えたい方には、代表作『第二の性』をおすすめします。名前は知っていても、何が書かれているのかわからない、という方にこそ中身を知ってほしい作品です。
なぜなら、女性の生を身体の特徴だけで説明せず、歴史や神話、育ち方、日々の生活までたどって考えるからです。女性を「他者」とみなす見方が、どう社会に根づくのかを広い範囲から問いかけます。
たとえば、I「事実と神話」では女性をめぐる説明やイメージを検討し、II「体験」では成長、結婚、母性、老年などの生活過程に目を向けます。掲載した河出文庫の決定版は、Iが1冊、IIが上下2冊の計3冊で一つの作品です。
『第二の性』を原文で読み直す会による訳で、3冊をそろえています。分量もあり、歴史や哲学の議論も登場するので、最初から一気に読み切ろうとしなくて大丈夫です。まず入門書で全体をつかみ、気になる問題を持って戻る読み方もできます。
2位:人間について(新潮文庫)
長い主著の前に本人の哲学的な文章へ触れてみたいなら、新潮文庫の『人間について』が候補になります。人が何かをしようとするとき、その行為は誰と、どんな世界につながっているのかを考える一冊です。
なぜなら、歴史や文学の例を通して、人間の存在を、自分だけで完結しないものとして問うからです。自由について考えたいけれど、抽象的な言葉だけではつかみにくい、という人の読書の入口になります。
たとえば、自分が選んだことは、ほかの人の生き方とどう関わるのだろう、と問いを持ちながら読めます。自分の行動を身近な場面に引き寄せて考えると、実存主義的な人間論も、ただ覚えるための知識から少し離れて見えてきます。
青柳瑞穂訳の文庫で、分量は比較的コンパクトです。ただし、薄いからすぐ理解できるとは限りません。考えがつながらないところでは立ち止まり、生涯と思想の入門書と行き来しながら、少しずつ読むのがよさそうです。
3位:離れがたき二人(早川書房)
哲学の論考より物語から入りたい方には、少女たちの友情を描く『離れがたき二人』をすすめます。考え方を先に覚えるより、登場人物の生きづらさや願いに触れてみたいときに選べる小説です。
なぜなら、友人と親しくなる喜びのそばに、家庭や信仰が少女の選択を狭めていく姿が描かれるからです。自由に生きたいという願いが、暮らしのなかでどんな重さを持つのかを考えられます。
たとえば、20世紀初頭のパリで育つシルヴィーと友人の関係を通じて、育った環境や周囲の期待が人に与える影響が見えてきます。理論の説明を読むときとは違い、二人の距離や選択の行方を追いながら問いに触れられます。
関口涼子訳。1954年に書かれながら生前には刊行されず、日本語版は2021年に刊行されました。ボーヴォワールの小説を一冊読んでみたい人に向いています。少女時代の歩みにも関心が湧いたら、回想の『娘時代』を次に選べます。
4位:老い 新装版(上下)
年を取ることを、本人の気の持ちようだけで片づけたくない方には、『老い』上下巻をおすすめします。誰もが年を重ねるのに、なぜ高齢者の経験は見えにくくなるのか、という問いに向き合う大著です。
なぜなら、生物学的な変化に加え、歴史や社会のなかでの扱われ方を検討し、老いを見る社会の側と、老いていく本人の側をともに考えるからです。ひとくくりの「高齢者像」から、こぼれ落ちるものに目を向けられます。
たとえば、社会が高齢者にどのような位置を与えてきたかを読むことと、当人にとって時間や他者との関係がどう変わるかを読むことを、行き来できます。老いを身体の問題だけに限定しないところに、この本の大きな読みどころがあります。
朝吹三吉訳、人文書院の新装版を上下で掲載しています。健康法や老後資金の手引きを探す本とは目的が異なります。分量に不安があるなら、先に上野千鶴子の解説で関心を絞り、自分の問いを持って原典に進んでみてください。
5位:おだやかな死(紀伊國屋書店)
身近な人の死を、遠い哲学の問題としてではなく考えたいときには、母の看取りを記した『おだやかな死』があります。娘として母に向き合う時間をたどる、自伝的な作品です。
なぜなら、母を失う悲しみとともに、苦痛を和らげたい思いと、治療を続けることへの迷いが描かれるからです。大切に思う相手のために何ができるのか、その答えの出にくさを見つめる本でもあります。
たとえば、病院で母を見守りながら、医師の判断や治療のあり方に疑問を抱く場面が語られます。死についての一般論だけでは届きにくい、患者と家族が置かれる具体的な時間に触れられます。
杉捷夫訳。医療上の判断を教える本ではなく、一人の娘による記録として読みたい作品です。入院や死別の描写がつらく感じられそうなときは、急いで手に取る必要はありません。今の気持ちに合うなら、『老い』とあわせて、人の生を支えることを考えられます。
6位:娘時代 ある女の回想(紀伊國屋書店)
ボーヴォワールがどのような少女だったのか知りたい方には、自伝の第一部『娘時代』がおすすめです。思想家として知られる以前の、家庭のなかで育ち、学び、自分の道を探していく時間に触れられます。
なぜなら、家族から期待される娘の姿と、自分が望む生き方のあいだをたどり、思想へ向かう歩みを一人の生活として読めるからです。有名な著作の背景に、どのような人との出会いや迷いがあったのかを知る入口になります。
たとえば、級友ザザとの友情や、学問へ向かう気持ち、青年期のサルトルとの出会いがつながっていきます。『離れがたき二人』が気になった人なら、回想と小説それぞれの語り方を味わう読み方もできます。
朝吹登水子訳で、幼少期から青年期までを扱う一冊です。この本だけで全生涯が語られるわけではなく、回想は『女ざかり』などへ続きます。まず人物に親しみ、その後で『第二の性』などの思想書を開きたい方に向いています。
7位:人はすべて死す(上下)
生きる時間に限りがあることを、小説から考えたい方には、『人はすべて死す』上下巻があります。もし死なない人がいたら、その人にとって人生や歴史はどう見えるのか、という問いを含んだ作品です。
なぜなら、不死の人物フォスカを通して、長い歴史と、一人ひとりの限られた生の関係を描くからです。長く生きられさえすれば満たされるのか、という疑問を物語のなかで考えられます。
たとえば、永遠に生きる人物の時間と、その時代にしか生きられない人の時間を比べながら読めます。先の展開を知る前に、この違いが人と人の関係にどんな重みを与えるかを追うのが、この小説の楽しみの一つです。
川口篤・田中敬一訳の岩波文庫を上下で掲載しています。古い刊行の版なので、購入時は巻と状態を確かめてみてください。自由や生き方を物語で考えるのが好きなら、『離れがたき二人』のあとにじっくり読んでみたい作品です。
ボーヴォワールのキー概念と、読む原典
本を選ぶ前に、どんな問いがあるのかを知っておくと読みやすくなります。気になる考え方があれば、表の書名から、その本の紹介へ戻れます。
女性を「他者」として見る社会の仕組み
『第二の性』では、男性が基準とされ、女性がそこから見た「他者」に置かれるあり方が問われます。女性の生き方を本人の努力や性格だけで考えず、どのような社会的条件があるのかを読む入口です。
まずはI「事実と神話」の問題意識をつかみ、IIの暮らしの場面と行き来してみてください。ほかの書き手の議論も読みたい場合は、フェミニズムのおすすめ本も次の一冊を探す参考になります。
自分の自由と、他者の存在
自分の意志で生きることを考えるときにも、ほかの人の存在は切り離せません。『人間について』は、何かを選び、行う人間のあり方を考えるための一冊です。
『人間について』を読みながら、自分の選択が誰とつながるかを問いにしてみるのもよさそうです。実存主義をもう少し知りたい方には、サルトルのおすすめ本もあります。
老いを個人の問題で終わらせない
老いを衰えの一言でくくると、社会の側が高齢者をどう扱っているかが見えにくくなります。ボーヴォワールの『老い』は、年を取る本人の経験と、それを取り囲む社会の両方へ目を向けます。
自分や家族の年齢から気になった方は、上野千鶴子の解説で問いをつかみ、原典を読む入口にできます。
限りがあるからこその生き方
永遠に生きられるとしたら、それだけで満ち足りた人生になるのでしょうか。『人はすべて死す』では、不死の人物を通して、歴史の時間と個人の生が描かれます。
物語を追いながら、一度きりの選択や他者との関わりがどんな意味を持つか考えられます。理論を先に理解するより、小説の問いから入りたい方に向いています。
ボーヴォワールの本はどの順番で読む?関心別の3ルート

9作品を全部読まなければいけない、ということはありません。気になるテーマや、いま読みやすい文章の形から、最初の一冊と次の一冊を選んでみてください。
初めて思想に触れるなら
『人と思想74 ボーヴォワール』 → 『人間について』 → 『第二の性』の順が一つの目安です。人物と問いの全体像を知ってから、短い論考、長い主著へ進めます。
『第二の性』は最初から全巻を通読しようとせず、まずIで何が問われているかを確かめてもよいでしょう。哲学そのものにまだ慣れていない方は、初心者向けの哲学の本から選ぶ方法もあります。
小説・回想から入りたいなら
『離れがたき二人』 → 『娘時代』 → 『人はすべて死す』という進み方ができます。少女たちの物語から、本人の回想、長い時間を扱う小説へと、読む楽しみを広げていけます。
さらに小説を読みたくなったら、長編『レ・マンダラン』も次の候補です。日本語訳は上下や著作集の2冊に分かれる旧版があるので、図書館や古書で探すときは両方の巻を確かめてみてください。
老いや身近な人との別れから考えたいなら
上野千鶴子の『老い』解説 → ボーヴォワールの『老い』と進むと、大著のなかで何を考えたいのかをつかみやすくなります。看取りに関心がある方には、『おだやかな死』もあります。
ただ、病気や死別の描写が心に重く響く時期もあります。今すぐ向き合おうとせず、物語や人物の入門書から始めても大丈夫です。そのときの自分に無理のない一冊を選んでください。
ボーヴォワールのおすすめ本についてよくある質問
最後に、最初の一冊や巻の選び方で迷いやすい点をまとめます。読む目的と、手に取りたい文章の形を合わせて考えると選びやすくなります。
最初から第二の性を読んでも大丈夫?
女性と社会の関係を原典で考えたいなら、最初から読んでも大丈夫です。ただ、分量があり、哲学や歴史の話も登場します。難しく感じたら生涯と思想の入門書へ戻り、何を問う本なのかをつかんでから読み直す方法があります。
第二の性は何冊そろえればよい?
この記事で選んだ河出文庫の決定版は、I「事実と神話」、II「体験(上)」、II「体験(下)」の3冊です。別の訳や旧版では巻の分け方が異なるので、書名に加え、訳者、出版社、巻の表示を確かめてください。
小説から読んでも思想はわかる?
小説からでも、自由や周囲の期待、人との関係といった問いに触れられます。まず『離れがたき二人』で物語を楽しみ、気になる問いが生まれたら論考へ進む読み方もできます。一冊で思想のすべてを理解しようとしなくて大丈夫です。
まとめ ボーヴォワールの本は、いま考えたいことから選ぼう
今回は、入門・解説書2作品と本人の著作7作品、計9作品を紹介しました。全体像、物語、老いへの関心など、自分がいちばん気になる入口から選んでみてください。
| おすすめ本 | こんな関心がある方に |
|---|---|
| 人と思想74 ボーヴォワール 新装版 | 生涯と思想の全体像を知る |
| ボーヴォワール 老い【超高齢社会という「恵み」】 | 老いを現代の問題から考える |
| 決定版 第二の性 | 女性と社会の関係を原典で読む |
| 人間について | 短い論考から自由と他者を考える |
| 離れがたき二人 | 少女たちの物語から入る |
| 老い 新装版 | 老いの経験と社会をじっくり読む |
| おだやかな死 | 母の看取りから死を考える |
| 娘時代 ある女の回想 | 思想家になる前の歩みを知る |
| 人はすべて死す | 不死の物語から生の意味を考える |
迷ったら、人物と考えを知るなら『人と思想74 ボーヴォワール』、物語からなら『離れがたき二人』、老いが気になるなら上野千鶴子の解説から。いまの関心に近い一冊が、次の読書につながればうれしいです。
