ロールズの『正義論』が気になるけれど、いきなり厚い原典を読んでよいのか、入門書から始めるべきか、迷っていませんか。
本人の本にも、社会のルールを考える主著、価値観の違う人々の共存を問う本、古典を読み解く講義録があります。何を知りたいかによって、読みやすい入口も変わります。
この記事では、ジョン・ロールズのおすすめ本を、入門書・解説書3作品と本人の著作6作品に分けて紹介します。研究書1作品を番外編に加えた計10作品です。主著の違い、版や全巻の選び方、関心別の読む順番も案内します。
初めて読む方も、次の原典を探している方も、いま考えたい問いに近い一冊を見つけてみてください。
読みたい本に合わせて、気になるランキングからご覧ください。
全体像から知るなら入門書を。本人の文章へ入りたい方は、『公正としての正義 再説』も候補になります。
ロールズのおすすめ入門書・解説書ランキング3選
まずは、人物の歩みや考え方をつかむための3作品です。人物像から入るか、主著の論理から入るかで選ぶと、最初の一冊を決めやすくなります。
1位:『ジョン・ロールズ 社会正義の探究者』(中央公論新社)
初めてロールズを読むなら、生涯と思想を一緒にたどれる中公新書の『ジョン・ロールズ』が入口になります。いきなり難しい用語を覚えるより、どんな問題を考え続けた人なのかを知りたいときに選びたい一冊です。
なぜなら、齋藤純一と田中将人が、平等な自由を大切にする思想が育った道のりを、生涯の出来事と結びつけて読み解いているからです。『正義論』という一冊の名前から、その後の議論へ視野を広げられます。
たとえば、太平洋戦線での従軍経験や広島への原爆投下の記憶が、ロールズにどんな問いを残したのかが取り上げられます。人物の歩みを追いながら、公正な社会を考えることが、なぜ切実な課題だったのかに近づけます。
哲学の本に慣れていない方にも、人物への関心から読み始めやすい構成です。本人の文章とは分けて読み、もう少し理論を知りたくなったら『公正としての正義 再説』へ進んでみてください。
2位:『ロールズ正義論入門』(論創社)
『正義論』の考え方を順に理解してから原典へ進みたい方には、森田浩之の『ロールズ正義論入門』が合います。人物の生涯よりも、自由や平等をめぐる議論がどうつながるかを知りたいときの解説書です。
なぜなら、『正義論』を政策の提案としてだけ眺めず、何を根拠に公正なルールを正当化するのかという哲学の問題から説明しているからです。有名な思考実験を知ったあとに残る、どうしてその結論になるのだろう、という疑問を考えられます。
たとえば、平等な自由、機会の平等と格差、制度、社会の安定という問題を追っていきます。格差をなくすべきだという気持ちと、どんな不平等なら認められるかを論じることの違いを整理する助けになります。
主著を横に置き、気になる論点を行き来しながら読みたい方におすすめです。原典の訳や短縮版ではないので、ロールズ自身の論証も確かめたくなったら『正義論 改訂版』を次の候補にできます。
3位:『ロールズ 正義の原理』(講談社)
自由と平等の原理を、ロールズの思想の背景から理解したい方には、川本隆史の『ロールズ 正義の原理』があります。主要な考え方を知り、その先に読む著作も探したいときに役立つ解説書です。
なぜなら、功利主義への応答や社会契約の組み直しをたどりつつ、正義の二原理が何を守ろうとするのかを説明しているからです。著作のダイジェストやキーワード解説、読書案内も収められています。
たとえば、言論や思想の自由を平等に保障することと、社会的・経済的な不平等をどんな条件で認めるかは、分けて考える必要があります。自由と格差のどちらか一つを選ぶ話にしてしまわず、両方の関係を考える手がかりが得られます。
掲載したのは講談社の「現代思想の冒険者たちSelect」の新装版です。2005年刊の解説なので、新しい資料も踏まえた人物像を先に知りたい方は中公新書の『ジョン・ロールズ』から選んでもよいと思います。
ロールズ本人のおすすめ著作ランキング6選
ここからは本人の著作です。全体像を見渡す本、主著、関心を深める講義録の順に紹介します。順位どおりに全部読む必要はありません。自分の問いに近いものから選べます。
1位:『公正としての正義 再説』(岩波書店)
本人の文章を一冊読んでみたいなら、『公正としての正義 再説』を最初の候補にできます。大部の『正義論』に取りかかる前に、ロールズがどんな社会を構想したのか、ひととおり見渡したいときに向く本です。
なぜなら、講義をもとにエリン・ケリーが編集した生前最後の著書で、批判に応えながら自らの理論を組み直しているからです。『正義論』の短い要約として読むより、考えがどう整理し直されたかに目を向けると読みどころが見えてきます。
たとえば、原初状態や格差原理から、財産私有型民主制、基本制度としての家族、社会の安定性へと議論が進みます。公正さを気持ちの問題で終わらせず、それを支える制度はどうあるべきか、という問いを追えます。
田中成明・亀本洋・平井亮輔訳の岩波現代文庫版です。理論が整理されていても専門用語は出てくるため、難しい箇所では『ロールズ正義論入門』などへ戻って大丈夫です。最初から一度で理解し切ろうとせず、気になる制度の話と基礎の話を往復してみてください。
2位:『正義論 改訂版』(紀伊國屋書店)
ロールズの中心的な議論を原典で追いたいなら、主著『正義論』は外せません。公正な社会を望むという気持ちから一歩進み、なぜそのルールを選ぶべきかを、時間をかけて考えたい方の一冊です。
なぜなら、社会契約の考え方を組み直して、功利主義とは異なる正義の原理を論じているからです。社会全体の利益と、一人ひとりの自由や権利を、どのような関係で考えるのかが問われます。
たとえば、自分の所得や地位を知らない立場からルールを選ぶ、という原初状態の議論があります。その思考実験だけで終わらず、基本的な自由、公正な機会、社会制度や人々の正義感へと話が続くところまで読み進められます。
ここで紹介するのは、川本隆史・福間聡・神島裕子訳の原著改訂版を訳した2010年の単行本です。旧訳や電子書籍の分冊とは区別して選んでください。分量のある本なので、『再説』で全体像を知ってから戻る読み方もできます。
3位:『政治的リベラリズム 増補版』(筑摩書房)
宗教や人生観が違う人と、どんなルールなら共に受け入れられるのだろう。そんな疑問を持つ方には、後期の主著『政治的リベラリズム』をすすめます。格差だけでなく、価値観の違う人々が暮らす社会を考える本です。
なぜなら、正義を支えるために全員の世界観を一致させるのではなく、異なる考えを持つ市民のあいだで成り立つ政治的な合意を探るからです。『正義論』のあとで、理論がどう展開したかを知るうえでも大切な著作です。
たとえば、別々の信念から共通の政治的な原則を支える「重なり合うコンセンサス」や、市民が理由を示し合う「公共的理性」が扱われます。増補版にはハーバーマスへの返答や、公共的理性を改めて検討する論考も収められています。
神島裕子・福間聡訳、川本隆史解説の筑摩書房版です。正義の二原理を知っていると取り組みやすいので、迷うときは『再説』からでもよいでしょう。分断をめぐるニュースの前提を、自分でも考えてみたい方に向いています。
4位:『万民の法』(岩波書店)
国内の制度から、平和や国際協力へ関心を広げたい方には、『万民の法』が候補になります。国と国のあいだに公正さを求めるとき、何を共通の原則にできるのかを問う晩年の本です。
なぜなら、異なる社会のあいだで、平和・人権・援助の条件を考えるからです。一つの国内で考えた格差原理を、そのまま世界全体へ当てはめる議論とは違う点も、読んでみたいところです。
たとえば、戦争に訴えることはいつ正当化されるのか、戦争中にも守るべき条件は何か、重荷に苦しむ社会をどこまで援助するべきかが論じられます。リベラルではない社会をどう扱うかという、共存の難しさにもふれられます。
中山竜一訳の岩波現代文庫版で、「公共的理性の観念・再考」も併載されています。国際社会についての問いを持ちながら読み、合意の前提をもう少し考えたくなったら『政治的リベラリズム』と行き来できます。
5位:『ロールズ政治哲学史講義』(全2巻・岩波書店)
ロールズがどんな先人から考えを受け継いだのか知りたいなら、『ロールズ政治哲学史講義』が面白い入口になります。自説をまとめた本とは違い、古典を読むロールズの視点にふれられる講義録です。
なぜなら、ハーヴァードで長年行った講義を通して、社会契約や功利主義の伝統を、八人の思想家からたどれるからです。サミュエル・フリーマンが死後に編集したもので、ロールズが完成させた一冊の概説書とは成立が異なります。
たとえば、Iではホッブズ、ロック、ヒューム、ルソーを扱い、IIではミルやマルクスの講義、シジウィックとバトラーの補論へ進みます。自分が知っている思想家の考えを、ロールズがどう読んでいるか確かめながら入ることもできます。
掲載した岩波現代文庫版はI・IIの全2巻で一作品です。齋藤純一ほか訳で、旧単行本とは分けています。ミルの議論から読み始めたい方は、J・S・ミルのおすすめ本も、古典を選ぶ手がかりになります。
6位:『ロールズ 哲学史講義』(全2巻・みすず書房)
自由や道徳をめぐる考えを、カントやヒュームまでさかのぼって知りたい方には、『ロールズ 哲学史講義』があります。こちらは道徳哲学を扱う講義で、『政治哲学史講義』とは別の作品です。
なぜなら、道徳哲学の古典を詳しく読み、人がどう判断し、道徳の根拠をどう考えるかを探っているからです。自分の理論を説明するロールズだけでなく、先人の議論に向き合う読み手としての姿に近づけます。
たとえば、上巻にはヒューム、ライプニッツ、カントの講義があり、下巻はカントの後半とヘーゲルへ続きます。関心のある哲学者の原典や解説と往復し、同じ自由という言葉でも何を意味するのかを考えられます。
バーバラ・ハーマン編、坂部恵監訳。原著は2000年に刊行された講義録で、紹介するのはみすず書房の2024年新装版・上下巻です。西洋哲学の知識があると取り組みやすく、カントが気になる方はカントの入門書・代表作も一緒に選んでみてください。
番外編:ロールズを深く読む研究書1選
原典の考え方を知ったあと、現実の社会や自分の専門とつなげたくなった方へ。専門的な論点へ進むための一冊を、入門書のランキングとは分けて紹介します。
『ロールズを読む』(ナカニシヤ出版)
原典を読んだあと、福祉や経済学など自分の関心とつなげたい方には、井上彰編『ロールズを読む』を番外編として紹介します。最初の概説より、問いを持って読む研究論集です。
なぜなら、政治哲学だけに範囲を区切らず、人文社会科学のさまざまな分野から正義論の意義と限界を検討するからです。ロールズの議論に賛成するかどうかを急ぐ前に、どんな分野で何が問題になるかを見渡せます。
たとえば、人権、社会福祉、生命倫理、企業の社会的責任へと論点が広がります。社会の安定性から前期と後期のつながりを検討する論考もあり、二つの主著の関係をもう一度考えるきっかけになります。
本人の著作ではなく、複数の研究者による論文集です。まず『再説』や『正義論』で基礎をつかみ、目次から自分の問いに近い論考を選ぶと、専門的な議論にも取り組みやすくなります。
ロールズのキー概念はどの本で読める?
専門用語の意味が少し見えると、原典の選び方も変わります。気になる概念から説明へ進み、書名から本の紹介へ戻れるようにまとめました。
| キー概念 | 読む原典 |
|---|---|
| 原初状態と無知のヴェール | 公正としての正義 再説 正義論 改訂版 |
| 正義の二原理と格差原理 | 公正としての正義 再説 正義論 改訂版 |
| 社会の基本構造 | 公正としての正義 再説 |
| 重なり合うコンセンサス | 政治的リベラリズム 増補版 公正としての正義 再説 |
| 公共的理性 | 政治的リベラリズム 増補版 万民の法 |
| 万民の法と援助の義務 | 万民の法 |
原初状態と無知のヴェール
自分がどんな家庭に生まれ、どれほどの所得や地位を持つのかを知らないとしたら、どんなルールを選ぶでしょうか。原初状態は、公平な選択を考えるために設定された立場で、無知のヴェールは個人的な境遇についての情報を隠す条件です。
社会一般についての知識まで失う話でも、過去に本当に結ばれた契約でもありません。まず『再説』で考え方をつかみ、論証を詳しく追いたくなったら『正義論』へ進めます。
正義の二原理と格差原理
ロールズは、平等な基本的自由と、公正な機会および社会的・経済的な不平等の条件を考えます。格差原理が問うのは、その不平等が、最も不利な人々にとって最大の利益になるかということです。
社会全体が豊かになれば誰かの自由を犠牲にしてよい、という考え方とは異なります。自由の優先性も含めて『再説』や『正義論』で読み、原理どうしの関係を確かめてみてください。
社会の基本構造
公正さの問題は、誰かが親切にするかどうかだけでは片づきません。政治、経済、家族などの主要な制度が組み合わさり、人々の権利や機会を左右する仕組みが、社会の基本構造です。
『再説』では、基礎的な観念から制度の構想へと進みます。日々の不公平さを個人の努力だけで説明してよいのだろう、と感じる方にとって、理論と暮らしを結ぶ読みどころになります。
重なり合うコンセンサス
同じ宗教や人生観を持たなくても、異なる理由から共通の政治的な原則を支持できるのではないか。重なり合うコンセンサスは、そうした合意の可能性を考えるための概念です。
一時的な力関係に応じた妥協にとどまらず、社会を支える合意をどう考えるかが問われます。『政治的リベラリズム』で詳しく読み、全体の中での位置づけを知りたいときは『再説』へ戻れます。
公共的理性
自由で平等な市民が、政治の根本的な問題について、互いに理由を示し合うときの考え方です。自分の信念だけを相手に押しつけず、共有できる政治的な理由をどう探すかが焦点になります。
私生活での会話や、宗教的な発言をすべて禁じる規則と受け取ると、議論が見えにくくなります。『政治的リベラリズム』と、再考の論文を収めた『万民の法』が読む候補です。
万民の法と援助の義務
公正な社会どうしがどう関係を結ぶか、人権をどう扱うか、困難を抱えた社会をどう支えるかを考える国際社会の議論です。国内の分配を論じるときとは、問いの立て方が変わります。
『万民の法』では、戦争や援助も検討されます。世界の所得を単純に同じにする話へ読みかえず、どんな社会が自らを支えられるようにするのか、という問いから読んでみるとよいでしょう。
ロールズの本はどの順番で読む?関心別の3ルート

全部の本を読まなくても大丈夫です。人物から知る、価値観の違いから考える、古典や専門分野へ進む、という3つの入口を用意しました。いま気になる問いから順番を選んでみてください。
正義論の考え方を基礎から知りたい
『ジョン・ロールズ』で全体像を知り、『公正としての正義 再説』へ進む順番が一つの目安です。議論のつながりで迷ったら、森田浩之の入門書を補助にできます。
そのあとに『正義論 改訂版』を選べば、知りたい論点を持って大部の原典へ入れます。入門書を全部読み終える必要はありません。正義の二原理など、気になった考え方を頼りに戻ってみてください。
価値観の違う人との共存を考えたい
人物と思想の入門書や『再説』で基礎を知ってから、『政治的リベラリズム』へ進めます。重なり合うコンセンサスという問いを持つと、読む目的がはっきりします。
さらに国際社会へ関心が広がったら、『万民の法』が次の候補です。国内の合意と異なる社会どうしの関係を、同じ問題として急いで片づけず、問いの違いも楽しみながら読めます。
この理論への批判も読み比べたい方は、サンデルのおすすめ本と読む順番で、『リベラリズムと正義の限界』への入口も確かめられます。
古典や自分の専門とつなげて読みたい
社会契約や功利主義の背景へ進むなら『ロールズ政治哲学史講義』、カントなどの道徳哲学に関心があるなら『ロールズ 哲学史講義』を選べます。二つを一度にそろえるより、知っている思想家のいる方からで構いません。
原典を読んで自分の分野との接点が気になったら、番外編の『ロールズを読む』へ。福祉、人権、生命倫理、経済学など、目次に並ぶ問いから、次に考えたいものを探せます。
ロールズのおすすめ本についてよくある質問
最初の一冊や、似た書名の違いで迷いやすい点をまとめました。読んでみたい内容と、手に取る版を合わせて確かめてください。
まとめ:ロールズの本を最初の1冊から読んでみよう
入門書3作品、本人の著作6作品、研究書1作品の計10作品を紹介しました。迷うときは、人物像を知りたいのか、本人の理論を読みたいのか、いま気になる問いから選んでみてください。
| 読みたいこと | 最初の候補 |
|---|---|
| 人物と思想の全体像 | ジョン・ロールズ 社会正義の探究者 |
| 本人の文章で理論を知る | 公正としての正義 再説 |
| 価値観の違う人との共存 | 政治的リベラリズム 増補版 |
入門書のランキングと本人の著作のランキングへ戻って比べられます。別の思想家の自由や正義も気になったら、政治哲学のおすすめ本から次の一冊を探してみてください。
