ウィトゲンシュタインの本を読んでみたいけれど、どれから手に取ればよいのか迷っていませんか。
『論理哲学論考』と『哲学探究』は有名ですが、短い文章にも多くの問いが詰まっています。まずは、言葉や心について考えたいのか、哲学の全体像を知りたいのか、自分の関心に合う入口を選ぶと読み始めやすくなります。
この記事では、おすすめ本を入門書・解説書4作品と本人の著作7作品に分けて紹介します。クリプキによる研究書1作品も番外編に加え、計12作品を取り上げます。前期・後期の違いや、キー概念を読む原典、目的別の読む順番もまとめました。
哲学が初めての方も、主著へ進みたい方も、最初の1冊と次の一歩を選ぶ参考にしてください。
ウィトゲンシュタインのおすすめ入門書・解説書ランキング4選
最初の一歩、思想の全体像、生涯との関係、『論考』の伴走役。4冊はそれぞれ役割が違います。すべてを順番に読む必要はないので、いま知りたいことに合う1冊から選んでください。
1位:ウィトゲンシュタイン、最初の一歩
哲学の本そのものが初めてなら、身近な疑問から考え始められる『ウィトゲンシュタイン、最初の一歩』が候補です。中村昇が、専門知識のない読者にも届く言葉で、その思考への入口を作っています。
なぜなら、難しい用語を一度に覚えるより、何を不思議だと感じたのかをつかむところから始められるからです。中高生を含む初学者に向けた本なので、哲学史を順番に学んでから手に取る必要はありません。
たとえば、言葉の意味が分かるとはどういうことか、心の中のことを他人に伝えるとはどういうことか。いつも使っている言葉にも問いがあると気づくと、原典が何を問題にしているかを考える足場になります。
まず一冊だけ選びたい方は、ここから始めてみてください。前期と後期の主著の違いまで見渡したくなったら、次の古田徹也の解説へ。最初から『論考』を一文ずつ読みたい場合は、野矢茂樹の伴走する本が合います。
2位:はじめてのウィトゲンシュタイン
『論理哲学論考』と『哲学探究』のどちらを読むか迷うなら、前期と後期の全体像をつかめる『はじめてのウィトゲンシュタイン』がおすすめです。古田徹也が、思索の変化とつながりを描きます。
なぜなら、像という手がかりを通して、二つの時期を別々の用語集にせず読めるからです。前期の立場が後期に変わったとだけ覚えるより、何を問い続けたのかに注目できます。
たとえば、言葉が世界のあり方を表すと考えることと、言葉が使われる場面を調べることは、どう違うのでしょうか。原典へ進む前に、この違いが自分の関心とどう結びつくかを考えられます。
幅広い見取り図を持ってから本を選びたい方に向きます。NHKブックスの一冊で、全体をじっくり追う分量があります。気になる原典が見つかったら、すべてを理解し終えるまで待たず、本書と行き来して読む方法もあります。
3位:ウィトゲンシュタイン入門
永井均の『ウィトゲンシュタイン入門』は、生涯と思索の展開を結びつけたい人に向く一冊です。人物の歩みをたどりつつ、言語や世界をどう捉えたかへ進みます。
本書の読みどころは、写像・文法・言語ゲームのつながりを追える点にあります。前期と後期で用語が変わることに加え、それぞれの段階で何を考えようとしたのかを整理できます。
たとえば、世界を写し取るものとして文を捉える説明から、日常の言葉が働く仕方へ関心が移ると、哲学の問い方も変わります。語りえぬものという問題も含め、その変化を一続きの思索として考えられます。
入門書ですが、短い要約だけを読む感覚ではなく、抽象的な議論で立ち止まる時間も取りたい本です。掲載の商品はちくま新書のKindle版。紙で読みたい方は、購入時に形式を確かめて選んでください。
4位:ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む
野矢茂樹の解説書『ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」を読む』は、『論考』の議論を原典と往復して理解したい人のための解説書です。ウィトゲンシュタイン本人の著作とは分けて選びましょう。
なぜなら、論理・言語・世界について凝縮された議論を、問いのつながりをほどきながら読み進められるからです。一つの文の意味がつかみにくいときに、何のための議論なのかへ戻る手がかりになります。
たとえば、文が世界を描くとは、絵のように似ているということなのでしょうか。日常語として分かったつもりになりやすい説明を、論理的な関係の問題へ読み直せます。
掲載はちくま学芸文庫の増補決定版です。同じ野矢茂樹が訳した下の岩波文庫版『論理哲学論考』と併読できます。著者全体を広く知るより、前期の一冊に集中したいときに手に取ってみてください。
ウィトゲンシュタイン本人のおすすめ著作ランキング7選
ここからは本人のテキストを読む7作品です。入口としての取り付きやすさと、関心からの選びやすさを基準に並べています。刊行順や重要度だけの順位ではありません。口述の記録や死後に編集された遺稿もあるため、成立の違いにも触れていきます。
1位:青色本
本人の文章に触れたいけれど主著は難しそう、という方には、後期の問いへの橋渡しになる『青色本』が候補です。言葉の意味や心について、考え直す道筋を追えます。
なぜなら、抽象的な定義を完成形として受け取るより、意味をどう説明するかを具体的な問題として考えられるからです。『哲学探究』へ向かう思索に近づく入口になります。
たとえば、言葉を理解したとき、頭の中には必ず何かの像があるのでしょうか。その像を持つことだけで言葉を使えるのかと問い直すと、意味を心の中のものだけで説明する難しさが見えてきます。
1933~34年の口述に由来する記録で、本人が完成した体系書として刊行した本ではありません。大森荘蔵訳、野矢茂樹解説のちくま学芸文庫版を紹介しています。全体の入門書を一冊読んでから取り組むと、問いを追いやすくなります。
2位:論理哲学論考
『論理哲学論考』は、前期ウィトゲンシュタインの出発点を原典で知りたい人のための主著です。世界、言語、論理の関係を、短い命題の積み重ねで考えます。
なぜなら、何が言葉で表せるのかを問うには、文と世界の結びつきまでさかのぼる必要があるからです。簡潔な文章の背後に、論理的な構造をめぐる議論が詰まっています。
たとえば、ある事実が起きたと述べることと、その出来事にどんな価値があるかを語ることは、同じ仕方でできるのでしょうか。言語の限界を考える議論は、倫理や生の意味をどう扱うかという問いにもつながります。
掲載は野矢茂樹訳の岩波文庫版です。ページ数の少なさを読みやすさと考えず、上の野矢の解説書を伴走役にしてみてください。日常の言葉の使い方に関心がある方は、『青色本』から後期へ進んでもかまいません。
3位:哲学探究
言語ゲームや規則の問題を本人の議論から考えるなら、後期の中心となる『哲学探究』へ進みましょう。日常の言葉を、さまざまな場面でどう使うかに注目する本です。
なぜなら、言葉を一つの定義に閉じ込めず、実際の活動の中で比べることで、意味や理解についての思い込みを問い直せるからです。一つの理論を先に覚えるより、具体的な問いに付き合う読み方が合います。
たとえば、命令すること、出来事を報告すること、遊びのルールを教えること。同じように言葉を使っていても、その言葉が果たす働きは違います。そうした違いを見ていくことが、言語ゲームを考える入口になります。
丘沢静也訳による岩波書店の新校訂版を紹介しています。死後に編集・刊行された著作であり、完成した教科書のようには読めません。『青色本』か全体の入門書を足場に、分からない箇所へ戻りながら取り組みたい一冊です。
4位:確実性の問題【全集9に収録】
「本当に知っていると言えるのか」が気になったら、疑いが成り立つ条件を考える『確実性の問題』が候補です。最晩年の記述から編まれた本で、知識と確実性を問い直します。
なぜなら、何かを疑うときにも、疑わずに使っている足場があるからです。すべてを一度に疑えば考えが深まるのか、それとも疑うという行為の働きが失われるのかを考えられます。
たとえば、記録が正しいか調べるには、資料を読む方法や、確かめる手順をすでに使っています。その土台まで同じ場面で問いにしたら、何を根拠に判断すればよいのでしょうか。身近な確認の営みから、懐疑の問題へ入れます。
紹介する商品は大修館書店の『ウィトゲンシュタイン全集』第9巻で、黒田亘・菅豊彦訳。「断片」も収録されていますが、ここでは『確実性の問題』を読む巻として選んでいます。『探究』の問い方に触れたあと、知ることを深めたい方に向きます。
5位:色彩について
知覚や美術への関心から言語の哲学を読みたいなら、色についての言葉を考える『色彩について』が入口になります。晩年の遺稿から編まれた、短い記述の集まりです。
なぜなら、色を説明する際にも、言える組合せと言いにくい組合せがあり、その違いが概念の働きを考える手がかりになるからです。色を見分ける身体の仕組みだけに問題を絞らず、色をどう語るかへ目を向けられます。
たとえば、白さや透明さという言葉は、それぞれどんなときに使えるのでしょうか。知っているはずの言葉を組み合わせたときに生じる戸惑いを、哲学の問いとして追えます。
中村昇・瀬嶋貞徳訳のちくま学芸文庫版です。配色の技法や色彩心理を学ぶ実用書とは目的が違います。『青色本』や『探究』で言葉の使われ方に関心を持ち、身近な題材で考えを深めたいときに選べます。
6位:反哲学的断章 文化と価値
芸術や文化に向けられたまなざしに触れたいなら、思索の周辺を読む断章集『反哲学的断章 文化と価値』が候補です。主著とは違う角度から、ウィトゲンシュタインの関心に近づけます。
この本では、文化や価値についての短い記述を、立ち止まりながら読むことができます。生前に公刊されなかったメモから編集されており、一続きの論証を追う著作とは読み方が変わります。
たとえば、シェイクスピアやマーラーへ向けられた言葉から、文学や音楽をどう受け止めるかという問いへ進めます。断章の印象的な一文だけを人生訓にせず、ほかの思索とどう結びつくのかを考えたい本です。
紹介するのは青土社の1999年版、丘沢静也訳です。全体を学ぶ最初の入門書として選ぶより、古田や永井の解説で背景を知ったあとに読むと、短い記述の位置づけを考えやすくなります。
7位:数学の基礎【全集7に収録】
『数学の基礎』は、計算や証明を哲学の問いとして考えたい人に向く遺稿集です。数学を学び直す手順より、数学の営みをどのように理解するかへ関心を向けます。
なぜなら、計算が正しいと認めることや証明を受け入れることには、規則を共有して使う実践が関わっているからです。後期の言語の問題を、数学という題材で掘り下げられます。
たとえば、同じ計算を先へ続けるとき、何をもって同じやり方だと考えるのでしょうか。答えの一致だけでなく、規則を学び、従い、確かめることに注目すると、見慣れた計算にも問いが生まれます。
大修館書店の『ウィトゲンシュタイン全集』第7巻、中村秀吉・藤田晋吾訳を紹介しています。1939年の講義を記録した別の本とは区別しましょう。『探究』の規則をめぐる議論に触れてから、数学の哲学へ進みたい方に合います。
番外編:クリプキの読解で規則の問題を深める
本人の著作を読んだあと、特定の問いを深めるための1冊です。総合的な入門の順位には入れず、何を考えたいときに読む研究なのかを分けて紹介します。
ウィトゲンシュタインのパラドックス
『哲学探究』の規則の問題が気になったら、クリプキ独自の読解を通して考える『ウィトゲンシュタインのパラドックス』へ進めます。本人の著作でも、思想全体の概説でもない研究書です。
なぜなら、過去の使い方だけで次の使い方が決まるのかという、規則に従うことの難問を集中して考えられるからです。私的言語や他人の心の問題とも結びつきます。
たとえば、これまで同じ仕方で計算していた人が、次の場面でも同じ規則に従うと言える根拠は何でしょうか。正しい使い方を確かめることが、個人の頭の中だけで完結するのかを問い直せます。
黒崎宏訳のちくま学芸文庫版です。クリプキが提示する解釈と、ウィトゲンシュタイン自身の議論を重ねすぎないよう、『探究』の紹介へ戻りながら読むとよいでしょう。入門書を探している段階なら、まずは上の4冊から選べます。
キー概念はどの本に出てくる?原典との対応
用語の意味だけを覚えるより、その言葉で何を考えようとしているかに注目すると、読む本を選びやすくなります。気になった概念から、原典の紹介へ戻れるようにまとめました。
像と言語の限界
文は世界のあり方をどのように表すのでしょうか。前期の「像」は、見た目が似ているという意味だけで受け取らず、文と事実がどんな関係を持つかという問いとして考えると入口が見えてきます。
『論理哲学論考』を、野矢茂樹の解説と往復して読めます。価値や生の意味を語ることが、事実を記述することと同じなのかにも注目してみてください。
言語ゲーム
言葉を、活動ややりとりの中で捉えるための見方です。ゲームという名前でも、遊びの場面だけを扱うのではなく、命令・報告・質問などの働きの違いに目を向けます。
『青色本』を橋渡しに、『哲学探究』へ。言葉の意味を一つの定義にまとめる前に、どんな場面で使っているかを比べてみましょう。
家族的類似
同じ名前で呼ぶものが、すべて一つの共通した性質を持つとは限りません。少しずつ重なり合う似方にも注目することで、言葉の範囲をどう理解するかを考えられます。
『哲学探究』が原典です。定義が見つからなければ言葉を使えないと考える前に、実際にどう教え、使い分けているかへ戻ると、言語ゲームの問題ともつながります。
規則に従う
規則を知っていることと、それに従って次の場面で行動できることは、どのように結びつくのでしょうか。説明をもう一つ足せば解決するのか、習得や実践も考える必要があるのかが問われます。
『哲学探究』を読み、さらに考えたいときに番外編の『ウィトゲンシュタインのパラドックス』へ進めます。後者はクリプキの読解なので、原典と区別して読み比べてください。
疑いと確実性
何かを疑うには、疑いを確かめる方法や、すでに受け入れている判断が必要になります。疑っていないことすべてを、根拠の弱い思い込みとして片づけてよいかを考える問いです。
『確実性の問題』では、知っていると言うことと、私たちの実践の土台との関係を追えます。気持ちを強くするための確信と、知識の哲学としての確実性を分けると読みやすくなります。
色を語る文法
ここでの文法は、助詞や語順の決まりだけを指すのではありません。色について、何を言えば意味が通じ、どんな言い方で戸惑うのかという、概念の関係を考えます。
『色彩について』が入口です。色の成分や目の仕組みを調べることと、色を表す言葉の使い方を調べることを分けてみると、問いの向きがつかめます。
計算・証明と規則
計算や証明を、どこかにある答えへ到達する手段としてだけでなく、人が学び、確かめ、共有する営みとして考えます。何を正しい続け方と認めるかは、規則に従う問題とも関わります。
『数学の基礎』は、『哲学探究』で規則の問いに触れたあとに選びたい一冊です。数学の問題を解く技法を学ぶ本とは、読む目的が変わります。
ウィトゲンシュタインの本はどの順番で読む?関心別の4ルート

『論考』を最初から読み切らなければ、ほかの本へ進めないわけではありません。入門で関心を見つけ、原典と解説を行き来する読み方もできます。いま考えたい問いに近いルートを選んでみてください。
哲学が初めてなら入門書から『青色本』へ
『ウィトゲンシュタイン、最初の一歩』 → 『青色本』 → 『哲学探究』の順なら、身近な問いから本人の思索へ進めます。
前期と後期を見渡してから原典を決めたい場合は、最初を『はじめてのウィトゲンシュタイン』に替えてもよいでしょう。全部の入門書を先にそろえる必要はありません。
『論理哲学論考』を読みたい
古田徹也の全体入門か野矢茂樹の『論考』解説を足場に、『論理哲学論考』へ。原典が進まなくなったら、同じ問いを扱う解説へ戻ってかまいません。
そのあとに『哲学探究』を読むと、言語を考える仕方の変化を比べられます。論理や命題の問題から始めたい人向けのルートです。
言葉やルールを深めたい
『青色本』 → 『哲学探究』 → 『ウィトゲンシュタインのパラドックス』なら、意味を説明することから、規則に従うことへ関心をつなげられます。
途中で言語ゲームや規則に従うことの説明へ戻ってみてください。最後の本はクリプキの研究なので、本人の議論とどこが違うのかも考えながら読めます。
確実性・色彩・数学・文化から選びたい
知っていると言う根拠が気になるなら『確実性の問題』、知覚や色の言葉なら『色彩について』へ。どちらも『探究』の問い方を知ってから読むと、短い記述を結びつけやすくなります。
計算や証明を考えたい方は、規則の問題から『数学の基礎』へ進めます。文学・音楽や価値への関心なら、全体入門のあとに『反哲学的断章 文化と価値』を開いてみてください。
ウィトゲンシュタインのおすすめ本についてよくある質問
最初の一冊や原典を選ぶときに、迷いやすい点を整理します。読み始める前に全部の予備知識をそろえるより、本の役割を知っておくことが大切です。
まとめ:いま気になる問いから1冊を選ぼう
まずは、知りたいことに近い一冊を手に取ってみてください。難しい箇所があっても、入門書や別の原典へ戻ることで、問いのつながりを少しずつ確かめられます。
| 知りたいこと | 最初の候補 |
|---|---|
| 哲学の本を初めて読む | ウィトゲンシュタイン、最初の一歩 |
| 前期と後期の全体像を知りたい | はじめてのウィトゲンシュタイン |
| 本人の思索に触れたい | 青色本 |
もう一度比べたい方は、入門書・解説書のランキングか本人の著作のランキングへ。言語や論理を考えるほかの哲学者にも関心が広がったら、分析哲学のおすすめ本から次の一冊を探せます。
